永遠の旅行者

永遠の旅行者 (上)
橘 玲
4344010116
永遠の旅行者 (下)
橘 玲
4344010124
 橘さんの本は、以前にも取り上げているし、けっこう読んでいます。でも、小説は初めてでしたね。基本的な筋としては、橘さんらしく、世の中の法の裏側、世界のすき間といえる、そんな舞台が主軸に置かれています。

 話としては、元弁護士の男。日本の仕事中心から逃げ出しハワイに税金と様々な厄介事から離れて生活している。その元弁護士に「20億円の資産を息子にではなく孫娘に相続させたい。1円の相続税も払わずに」というものだった。さて、いったいどうなる? という、内容です。

 そこに絡みついてくるのが、日本の法律、世界の法律。そして、税務や刑事。また、娘についている精神の崩壊。そして、精神病。アメリカに飛んで浮浪者や精神をやんだものへの様々なケア事情。そして、第2次大戦の捕虜の問題。様々な事情が絡みついてきて話をさらに入り組ませる。さて、最後に遺産は渡す事が出来るのか。そして、息子とはどんな人間なのか、孫にまつわる話とは? と入り乱れてきております。

 ココから先は、話の筋もでるのであとは読みたい人向けに。
 ちなみに、感想としては、相変わらず世の流れを斜に見た視線が、面白い。そこから来る人間模様の複雑さを説いていく模様にも、感心するところが多かったです。なんとなく村上春樹調なところも多かったですけどね。

 さて、ココからはネタバレもありと言う事で

 お父さんとムスメにまとわりついてくる「母親殺し」の現場の話。先にも書いたけど、なんとなく村上春樹調の文面が多かったのですよ。例えば精神病にやんだムスメが、少しずつ、元の世界に戻ってくる描写なんかも、あるんですけどね。何となく、そこを中心にして、めでたしめでたしの方が良かったのかなあと。そこに、サスペンス要素が絡みついてくるのですけど、なんか、ちょっと邪魔だったような気も。

 けっこうひとりの人間の精神が戻ってくるという場面は好きでした。分裂した局面と、その元になった父とのわだかまりの解消。そこから彼女を強くしていく模様。一人の人間の見かたとして、読みいってしまった。 まあ、私の感想なんですけどね。

 あと、世界の事情は知らなかった事が多いなあ。例えばニューヨークの最後を見とるシーンなどの保証事情。そう言った話はどこも紹介されていないので、こういった事情があるんだなあと。

 そして、とにかく、きっちりした人だなあとも。様々な複線が巡らせているのだけど、全てをきっちり解消して終わらせようとしている。作品によっては、「あれ?けっきょくこれって?」と、途中でそれっきりなんてのもあるんだけどね。ここまでしっかり抑えたんだ、とも思ったり。
 ともあれ、力作ですけど、気軽に読める。だけど深い。そんな作品でした。


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